「PMFって聞いたことはあるけど、実際のところ何なの?」
「PMFの達成はどれくらい重要なの?」
この記事は、そんな方に向けて書いています。
EC市場は年々競争が激化しており、ただ「良い商品」を作るだけでは生き残るのが難しい時代です。
顧客のニーズを的確に捉え、「この商品がないと困る」と思われる状態をつくり出すことこそが、継続的な成長へのカギとなります。
その指標となるのが、PMF(プロダクトマーケットフィット)です。本記事ではPMFの基本概念から達成までのステップ、さらには成功事例までを分かりやすく解説します。
- PMFとは「この商品が欲しかった!」と思われる状態で、ビジネス成功に欠かせない基盤
- PMFを達成すれば、リピートや紹介が自然と増え、広告に頼らず売上が伸びていく
- そのためには、顧客の声をもとに仮説検証と改善を繰り返すプロセスが重要
PMF(プロダクトマーケットフィット)とは?

PMF(プロダクトマーケットフィット)とは、「商品が市場のニーズに合致している状態」のことで、この概念は、シリコンバレーの著名な投資家 Marc Andreessen(マーク・アンドリーセン)によって広められました。
提供する商品やサービスが、ターゲット顧客の真のニーズや問題を解決し、顧客が「これがなければ困る」と感じる状態にまで達していることを意味します。
つまり、単に「良い商品」ではなく、「顧客にとって必要不可欠な商品」になっているかどうかが重要なのです。
PMFを達成する重要性とは?売上や成長につながる
PMFを達成することはとても重要で、以下のような大きなメリットがあります。
特にECのような競争の激しい市場では、PMFを達成できるかどうかが、成功と失敗を分ける大きな分岐点になります。
- 売上・リピート率・LTVの向上
顧客が継続的に商品を購入するようになり、一顧客あたりの生涯価値(LTV)が高まる - 顧客からの自然な口コミ・紹介
満足した顧客が自発的に周囲に推薦するため、新規顧客獲得コストが下がる - マーケティングコストの最適化
広告に依存せず、オーガニックな成長が見込めるようになる - プロダクト改善のサイクルが回り始める
顧客からのフィードバックが増え、さらに良い商品開発につながる
スーパーに並んでいるトマトを想像してください。自社より安くておいしいトマトが並んでいるコーナーに、自社のトマトを置いたところで選べるはずがありません。
そこで、ストーリーを付与したり、付加価値をつけたりすることで、「自分のトマトを選んでもらうこと」、これこそPMFと言えるでしょう。
PMF達成までの4ステップ

PMFは運や偶然で達成するものではありません。
EC事業者が取るべき基本的なステップで段階的に設計し達成をしていきましょう。
ステップ1:課題の仮説と検証

まず最初に取り組むべきは、顧客が抱える本質的な課題や悩みを深く理解することです。表面的なニーズではなく、根本的な課題を特定することがPMFへの第一歩となります。
方法1:顧客インタビュー
実際の顧客や見込み顧客との対話を通じて、ユーザーの悩みや課題を聞き出します。
方法 | 内容 |
---|---|
① Googleフォームのアンケート | 「この商品で何に困っていましたか?」などの設問を購入完了画面 or メルマガで表示 |
② LINEやInstagramのアンケートスタンプ | 2択〜4択で「どんな目的で買いましたか?」などを投稿 |
③ 購入者へのThanksメールに質問を添える | 購入完了メールで「何が決め手になりましたか?ご返信いただけると嬉しいです」などを記載 |
④ LPに選択式で「お悩みベスト3」を設置 | 訪問者に「どんなことで悩んでますか?」を選ばせてセグメント把握 |
例えばアンケートを利用する場合は、以下のような質問でユーザーニーズを把握することができます。
- ご購入前、どんなことに悩んでいましたか?
→ 顧客の「動機」と「ベネフィット」を言語化。訴求コピーやLP改善の軸に - この商品を選んだ決め手は何でしたか?
→ 競合優位性の把握+訴求すべき強みの抽出(例:味、価格、使いやすさ、サポートなど) - 購入前に、他に検討していた商品やサービスがあれば教えてください。
→ 競合の実態把握と、自社との差別化ポイント・比較優位の発見に - あなたのライフスタイルや使用シーンについて、よければ教えてください。
→ ペルソナ設計や広告ターゲティング、シーン別訴求に活用 - この商品・サービスを使って、どんな良い変化がありましたか?
→ 成果・体験談・口コミ文として活用できる一次情報を収集
方法2:検索データの分析
商品やサービスに関連するキーワード検索から、潜在的なニーズを読み取ります。
方法 | 内容 |
---|---|
① ラッコキーワードで無料サジェスト取得 | 無料・登録不要で利用可能。検索ボックスにキーワードを入力するだけで、関連する「悩み系・比較系・用途系」の検索ワードが一覧で表示される |
② Googleサジェストの確認 | Google検索窓にキーワードを入れるとユーザーが検索した関連キーワードを確認できる |
③ YouTubeで商品検索 | YouTubeは「レビュー」「比較」「Vlog」など生活目線のニーズが多いため、使い方やシチュエーションを把握できる |
④ Googleキーワードプランナーでトレンドを確認 | 無料のGoogle広告アカウントで利用可。検索数の増減からニーズ変化を把握できる |
例えばGoogle検索のサジェスト確認は、誰でも簡単に実施できます。
以下のようにGoogle検索窓にキーワードを打ち込むと関連するキーワードが出てくるため、リアルタイムでユーザーニーズを把握できます。

またGoogleキーワードプランナーでは関連するキーワードだけでなく、検索ボリュームも抽出してくれるので併用することもオススメです。
※Google広告を出稿していない場合、以下のように検索ボリューム「1000〜1万」といったおおまかな範囲でしか確認できまないので注意です。規約の関係上、出稿無し状態のデータを掲載させていただきます。

ECコンサルや広告運用代行を利用して検索広告を出稿している場合は、月に1回程度の定例ミーティングなどで検索クエリ(実際にユーザーが検索したキーワード)のレポートを共有してもらい、確認するのも有効です。
方法3:競合分析
競合サービスのレビューや評判から、満たされていないニーズを特定します。
まずは、最低限押さえておきたい競合の情報を確認しましょう。
項目 | 内容 | 目的 |
---|---|---|
1. 商品の特徴 | 何をどのように提供しているか (例:冷凍弁当・糖質制限など) | 自社商品との違いを明確にするため |
2. ターゲット層 | どんな顧客に向けたサービスか (例:共働き家庭・高齢者など) | 自社が狙うべき市場とのズレを確認 |
3. 提供価値 | 顧客が得られるメリット (例:時短・健康・コスパ) | 自社が満たすべき“ニーズ”の整理に役立つ |
4. ユーザーの不満 | レビューやSNSで見られる不満点 | 未充足ニーズを探る手がかり |
5. 価格・プラン | 単価・サブスク料金・配送頻度など | 自社の価格戦略を考えるための基準 |
またAIを利用することでも競合分析が可能です。
以下のようなプロンプトを用い、AIのDeep Researchという機能を使用すると簡単に競合分析をしてくれます。
〜競合調査用プロンプト〜
あなたはPMF(プロダクトマーケットフィット)を達成するために競合分析を行うプロのマーケターです。
以下の条件に基づき、競合企業3〜5社を選定し、それぞれの「商品特徴」「ターゲット顧客」「提供価値」「ユーザーの不満・レビュー傾向」「価格帯」「配送・サポート体制」などを、できる限り定量・定性の両面で調査してください。
【分析対象ジャンル】
※ここに調査したい商品のジャンルを記載(冷凍食品D2Cなど)
【目的】
市場における“満たされていないニーズ”や“競合の弱点”を把握し、自社商品のPMF達成に活かすこと
【出力フォーマット(表形式 or セクションごとの記述)】
– 見えてきた「未充足ニーズ」や「差別化の余地」
– 企業名 / ブランド名
– 商品・サービス名
– 提供価値(例:糖質制限、調理不要、時短)
– 主なターゲット(例:単身者、高齢者、共働き世帯など)
– 価格帯・プラン
– 配送方法・頻度・柔軟性(スキップ・一時停止など)
– SNS・レビュー・Amazon等におけるネガティブな声や不満
– 競合内で評価されているポイント(ポジティブレビューの傾向)
※レビューやSNSの声はできるだけ引用形式で記載してください
※記載ソースも明示(例:Amazonレビュー、Xの投稿など)
【目的に合わせた分析視点】
1.自社で超えられる可能性のある差別化軸(価格・味・UX・サポートなど)
2.顧客が離脱する原因(レビューの不満点)
3.商品の改善点や開発のヒント
すると以下のように詳細情報を抽出してくれるので、わずか数分で競合分析が可能です。

抽出結果の量が多いので、参考までに以下のファイルからも確認してみてください。
ステップ2:最小限の商品を作る

仮説を立てたら、それを検証するための最小限の商品(MVP:Minimum Viable Product)を作ります。
フルスペックの完璧な商品を目指すのではなく、核となる価値提案を体現した「試作品」を早期に市場投入することが重要です。
EC商品におけるMVPの例としては以下があげられます。
- 限定された商品ラインナップでのテスト販売
- 特定地域のみへの配送サービス開始
- 簡易的なウェブサイトや注文フォームでの受注
MVPは完璧である必要はありません。むしろ「早く市場に出して、早くフィードバックを得る」ことが重要です。
ステップ3:フィードバックを元に改善を繰り返す

MVPを市場に投入したら、顧客の反応や行動を詳細に観察し、フィードバックを集めます。
この段階でPMFに達していることはまれで、多くの場合は継続的な改善が必要です。改善のために注目すべき情報源には以下のようなものがあります。
- 商品レビューやカスタマーサポートへの問い合わせ:顧客の生の声から改善点を把握します
- リピート率やキャンセル理由:継続利用の阻害要因を特定します
- 購買行動データ:どの商品が人気で、どの導線が効果的かを分析します
例えば、商品レビューは以下の方法で確認することが可能です。
方法 | 内容 |
---|---|
① Amazonや楽天のレビュー分析 | 商品のレビューに着目し、何が良くて何が悪かったのかを分析 |
② Twitter/Xで商品名などで検索 | SNSの本音投稿をチェックする |
③ Googleマップや食べログの口コミを読む | 実店舗併用の競合ならローカルレビューも有効 |
④ YouTubeレビューや開封動画を見る | ユーザーの実際の使用感が分かる |
このフィードバックサイクルを通じて、商品そのものだけでなく、価格設定、配送オプション、ウェブサイトの使いやすさなど、顧客体験の全ての側面を継続的に改善していきます。
ステップ4:PMFの指標を計測して判断

改善を繰り返す中でPMFを達成したかどうか、感覚や印象ではなく、数値化された客観的データに基づいて判断することが重要です。
PMF判定に使われる主な指標には以下があげられます。
- リテンション率(初回購入者の再訪率)
一度購入した顧客がどれだけ再購入しているか。
食品ECでは、2回目以降の購入率が50%を超えると良好な兆候です - NPS(ネットプロモータースコア)
顧客が他者に推薦する意向の強さを測定する指標 - 顧客レビューの質と量
レビューの内容が「便利」「時間節約になる」から「なくてはならない」「生活が変わった」といった表現に変化すれば、PMF達成のサインです - カスタマーサポートへの問い合わせ内容の変化
苦情や基本的な質問から、より深い使い方や追加機能への要望に変わってくると良い兆候です - SNSでの言及やUGCの量
顧客が自発的にSNSで投稿したり料理写真を共有したりする量が増えてきたら、高いエンゲージメントの証拠です - 40%ルール(ショーン・エリスによる判断基準)
「このサービスが使えなくなったらどう感じますか?」という質問に「とても残念」と答える顧客が40%を超えるとPMF達成と判断できます
各項目のリテンション率の平均一覧は以下なので、参考にしてみてください。
ジャンル | 平均リピート率(再訪率) |
---|---|
化粧品・健康食品 | 約50% |
食品・飲料 | 約40~50% |
アパレル | 約35% |
家電 | 約25% |
これらの指標が一定のしきい値を超えたとき、PMFを達成したと判断できます。ただし、市場環境や顧客ニーズは常に変化するため、PMFを維持するための継続的な努力も欠かせません。
上記サイクルを積み重ねていって、より自身のPMFをブラッシュアップし続けること、これこそPMFと言えます。
EC業界でPMFを実現した成功事例3選
日本国内の食品EC領域で見事にPMFを達成し、その後大きく成長した3つの企業事例をご紹介します。
成功事例1:ユーザー課題に基づく商品設計と体験改善で支持を拡大

オイシックスは、都市部の共働き家庭を中心に支持されている有機・無添加食品の宅配サービスです。
2000年の創業当初は、安全で美味しい有機野菜の定期宅配からスタート。顧客の声を丁寧に取り入れながら、サービスを改善していきました。
- 「献立を考える時間がない」「料理の手間を減らしたい」といったニーズに応えるため、必要な食材とレシピをセットにしたミールキット『Kit Oisix』を開発。20分で2品が完成するこの商品は大ヒットし、2021年にはシリーズ累計出荷数が1億食を突破しました。
- 週に1,000件以上の顧客フィードバックを商品開発に活用。スマホアプリでの注文スキップ・追加機能や、冷凍食品専用の物流拠点の整備など、利便性と顧客体験の向上に努めてきました。
こうした継続的な改善によって顧客の定着率が向上し、2021年時点では会員数約27.4万人。2023年には会員数が約40万人に拡大し、有機野菜からミールキットまでを展開する食品EC企業へと成長を遂げています。
成功事例2:試作を重ねてたどり着いた、共感を生むプロダクト戦略

画像引用:Stripe、完全栄養食を提供するフードテック BASE FOOD の急成長をサポート | ストライプジャパン株式会社のプレスリリース
ベースフードは、「主食で手軽に栄養バランスを整える」というユニークな価値を提供するフードテック企業です。
2016年に設立され、忙しいビジネスパーソンや健康志向の若者を主なターゲットとしています。
ユーザーの潜在ニーズを的確に捉え、他に代替のないプロダクトを作り上げたことでPMFを実現しています。
- 「忙しくても健康に良い食事をしたい」という実体験から着想を得て、1食で1日に必要な栄養素の1/3が摂取できる“完全栄養食”の開発に着手。100回以上の試作を経て、2017年に『BASE PASTA』を発売。この商品は、健康意識の高い層に支持され、口コミによって急速に広まりました。特に、「手軽さ × 栄養 × おいしさ」を兼ね備えた点が、他社商品と一線を画し、代替のないプロダクトとして市場で受け入れられました。
- ベースフードはD2C(Direct to Consumer)モデルを採用。自社ECを通じて販売し、ユーザーからのフィードバックを即座に商品改良へと反映。定期購入者も多く、継続率の高さが事業成長の原動力となりました。
その上、コロナ禍による健康志向の高まりという社会的な追い風も受け、需要は一気に拡大しました。
2023年時点で累計販売数は1.5億食分を超え、売上規模も2020年の4.23億円から2024年には148.7億円と、わずか4年で約35倍に成長しています。
成功事例3:生産者の想いを伝える体験設計でファンを生み出した施策

画像引用:85万人が利用する産直EC「食べチョク」が語る「生産者ファースト」なマーケティング。農作業を手伝う理由、映え写真より「日常的な写真」の効果が高かった話。|アプリマーケティング研究所
食べチョクは、全国の農家や漁師など生産者と、消費者を直接マッチングする産直ECプラットフォームです。
2017年に正式サービスを開始し、「新鮮でこだわりの食材を産地から直接届けてほしい」という生活者のニーズと、「適正価格で直接販売したい」という生産者の想いを同時に満たす場を提供しました。
市場(一次産業と消費者)のミスマッチを埋める明確な課題解決によってPMFを達成しています。
- 「生産者の想いまで届ける」ユーザー体験を重視。手紙の同封やSNSでの情報発信を通じて、生産者のストーリーを消費者に伝えることで商品への共感とファンになる動きを後押ししました。こうした取り組みが、リピート購入や定期便サービスの好調にもつながっています。
2024年3月時点で、ユーザー数は100万人、生産者の登録数は9,400軒、出品商品数は5万点を超えるまでに成長しました。
現在では、法人向けサービスに加え、果物セレクト便などのサブスクリプション型・高付加価値商品の提供にも注力していて、食べチョクは国内最大級の産直プラットフォームとして、さらなる拡大を続けています。
まとめ:ビジネスの継続的成長にはPMFの達成が必要不可欠
ビジネスの継続的な成長のためにPMFについて再確認しましょう。
- PMFとは「この商品が欲しかった!」と思われる状態で、ビジネス成功に欠かせない基盤
- PMFを達成すれば、リピートや紹介が自然と増え、広告に頼らず売上が伸びていく
- そのためには、顧客の声をもとに仮説検証と改善を繰り返すプロセスが重要
PMFは、顧客の声を成長につなげるための“具体的な指標”です。
「これがないと困る」と思われるサービスを作ることがビジネス拡大には重要なので、変化する市場の中で顧客理解と改善を繰り返し、PMFを達成・維持を目指しましょう。
ネットショップについて、より詳しく知ってみませんか?
ECのロジックを知れば、「出来るかも」が増えます。
「出来るかも」が実現したら、楽しくなります。
楽しくなると、より店舗運営が「楽」になります。